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3月 20, 2011の投稿を表示しています

原子力発電事故の基礎知識(5) ー山内さん見解に対する見立てー

原発の基礎知識の ブログ を(4)までを書いた後,友人から*1について「 非常に検討する価値がある新鮮な文書を見つけました。理科系の頭脳で要約してみてください。」と注文がきた. webの著者は スウェーデン国立スペース物理研究所 ( Swedish Institute of Space Physics (IRF))の科学者・ 山内正敏さんで,今回の福島原発事故で外部被曝を避けるためにどの 『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』に点いて書かれている. このページは改訂されており,改訂前のページに対しては 東北大学の北村 正晴 名誉教授が辛口のコメントを掲載している[*2]. 山内さんの動機である, 『現在の放射能の値は安全なレベルである』   という談話を発表していますが、残念ながら、どの組織も   『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』  を発表していません。 に激しく同意する.TVに出てくる安全・安全と繰り返すヒトはどうなったらどういった行動を起こすかを併せて言う必要がある. このページではいつ退避すべきなのかを氏の論文を考察する.結論として,「山内さんの結論は仮定された数字に根拠が示されていないため(1),(2),(6),(7)を指針と出来るかわからない」である. 主張のポイントは, 外部被曝の(許容)上限値を総量100 mSv(ミリシーベルト)とする(妊婦以外の大人). 住居付近で放射能濃度の悪化に気がついてから脱出まで半日かかると仮定 悪化とは刻々と状況が悪くなる事態を意味するので危険値は100時間で割るのが妥当 (1) 居住地近くで1mSv/hに達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。 (2) 居住地近くで0.1 mSv/hに達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。 (3)  妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで0.3 mSv/hに達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号 (4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで0.03 mSv/hに達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号 (5) (福島)原発から北西と真南に伸びる地域では上記(1)、(3)の半分の放

原子力発電事故の基礎知識(4) ー問題点ー

原子力発電の基礎知識(3)まで書いたところで妻がAERAの最新号を買って帰ってきた. twitterでものすごく評判の悪い表紙である.中身を読むと書いてある事は勉強の範囲で別に驚くような事は書いていないし,放射能(放射性物質)は気象条件により遠くまで飛散するので表紙もそんなに誇張されているわけではない.ただ,人体に影響がある量かどうかだ. 記事でちょっと気になったので調べてみた.気になる点とは「ヨウ素は〜,臨界が止まった状況だったので炉内の量は既にそんなに多くはなく心配の必要な無いが,仮に臨界が起きたとすると事態は変わる.炉内で大量に作られ始める事になる」である.これは本当だろうか.ヨウ素131は臨界以上のウランの核分裂でしか出来ないのかを調べた. まず見つけたのは参考[1].ここれは使用済み燃料棒の発熱は「核分裂生成物( クリプトン89、ストロンチウム89,90、イットリウム90、ジルコニウム95、ヨウ素131、キセノン133、135、セシウム137など)をはじめとする、非常に多数の数時間、数日以上の半減期を持つ物質の崩壊による放射線エネルギーによる熱」とのこと。これらの核分裂生成物が崩壊するときにヨウ素131が出ないのだろうか. 次に見つけたのが参考[2]だ.ここでは ウラン−238の自発核分裂  でのみ生じるのなら使用済み燃料棒ではあまり起こらないだろう.ひとまず安心. 生成と存在 ヨウ素のもっともよく知られている放射性同位体。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応によって生成し、地上でウラン‐238( 238 U)の自発核分裂によって生じる。いずれにしてもその量は小さい。 〜 電気出力100万kWの軽水炉を1ヶ月以上運転すると、310京ベクレル(3.1×10 18 Bq)が蓄積して、その後は同じ量が存在し続ける。 結論として, 福島第一原子力発電所の事故で懸念しなければならないのはヨウ素131の内部被曝で,これまでの原子炉の爆発事故での放出が主だろう.今後ウラン238の臨界核分裂が無ければ半減期が短いので日を追って問題なくなるだろう. (2011年03月21日) *1: 使用済み燃料を冷却せずに放置したら、再臨界します? *2: 放射能ミニ知識(ヨウ素131)

原子力発電事故の基礎知識(3) ー許容放射量ー

どの程度放射性物質が拡散されても許容できるのか. これまでの勉強から理系的な理解では,次の関係が成り立つ. 私の体の許容被曝量が被曝した総量より小さい事. 許容被曝量<被曝量総量(t)=∫ (汚染源からの放射性物質の放射量(t)*汚染源から居住地までの到達率(t)),[t=0,τ] ここで,(t)は時間関数であり,[]は積分の下限値と上限値である.t=0は汚染開始時刻,すなわち,原子炉の事故発生時刻.τは事故からの経過時間(つまり今). f(t)を 汚染源からの放射性物質の放射量(t),g(t)を 汚染源から居住地までの到達率(t)とすると 許容被曝量<被曝量総量(t)=∫ f(t) g(t) dt,[t=0,τ] f(t)は国によって公開されている[*1].それによると 3月19日の12時前後の福島第一原子力発電所事務本館 北側においてモニタリングカーにて空気中のダストを初めて採取して核種 分析を実施した結果は, 検出された主な核種は揮発性のよう素-131では5.940×10^-03(Bq/cm 3 ) 粒子状のセシウム-137では0.024×10^-03(Bq/cm 3 ). 福島第一原子力発電所の1号炉が水素爆発したのは3/12の15:36分頃. 3月15日  6時10分、福島第一原発の2号機から爆発. 3号機付近で放射性物質を400ミリシーベルト/時を確認[*3]. 福島第一原子力発電所の正門において測定した放射線量は図を引用 . 次に 汚染源から居住地までの到達率(t)を考える.これはチェルノブイリの事故を参考にする.風や降水の気象状況に大きく依存するので一般解を求める事は出来ないが,チェルノブイリでは放射性物質が10t出たとすると,そのうちのセシウム137は %であろう.汚染源であるチェルノブイリ原発から300km圏内では 黒灰色の 15−40Ci/km^2が最も大きな数字に見える.これをどう考えるのかでいくらでも数字をコントロールできる.ピークで考えるのか,平均で考えるのかで桁で数字がかわるだろう. リテラシーの問題だから自分の頭を使って考えるしか無い. 健康問題は最悪ケースを想定する. この場合ピークを使うのが正解と考えた.そこにいた場合が最悪だから である. とすると,300km圏内のピークは原発位置から50km圏に対

原子力発電事故の基礎知識(2) ー事故の問題点ー

「何が問題か?」:改めて今回の福島第一原子力発電所の事故で何が問題かを整理する.問題点はつまるところ2点. 放射能被曝 東京電力の発電能力低下とそれに伴う関東の電力不足 2点目の電力不足は計画停電で回避策が短期的にはとられている.受益者である東電の給電エリアの関東の人が甘んじて受け入れなければならない. 問題は1点目の放射能被曝.放射能とは広い意味で放射性物質と放射線を含む.ここでは広い意味で使う.被曝に影響する核分裂時に生じる放射能とは次になる[*1]. 核:α(アルファ)線,中性子線 (質量のある粒子) 高エネルギー電磁波:γ(ガンマ)線,X(エックス)線,(質量の無い電磁波) 放射線とはこれら両方を言う.また,被爆には2種類ありそれで対応が異なる 外部被曝(人体表面から体外から直接放射線をあびること) 内部被曝(食べ物や呼吸から取り込まれた放射性物質から体内よりあびること) このうち外部被曝をさけるには, アルファ線を防ぐ = 皮膚全体が出ないように覆う. 電磁波を防ぐ = ガンマ線,X線とも透過力が高く鉛や金,コンクリートなどでしか遮蔽できないが,距離の2乗に反比例するので数km離れれば問題ない. 中性子線を防ぐ =  質量数の小さい物質のほうが効果的に遮蔽でき水素や炭素を多く含む物質、例えば水やポリエチレンで遮蔽できるが,こちらも数km離れれば問題ない. つまり,汚染源から離れる事である. 次に内部被曝をさけるには, 放射性物質を体内に取り込まない(食べ物や飲み物から内蔵へ,吸気から肺へ,傷から血管への入る経路) につきる.これは体内に取り込まれた放射性物質 は細胞の表面で 核分裂するので,これからの放射線のエネルギーと生体への影響は距離が短いので大きいためである.ただし,自然界にも放射性物質はラドンなどが存在する.そのため,体内に取り込んだ放射性物質の量が問題となる. 問題となる放射性物質の量はいくらであろうか. まず単位は シーベルト[Sv]で,生体への被曝線量を表わす. シーベルト(Sievert、Sv)とは、被曝線量という生体が受けた放射線の総量で、放射線の強さではない[*2]. 法律により許容される被曝線量(自然放射線や治療による被曝を除く)[*2,*3]は 放射線や放射能を扱う医師、レン

原子力発電事故の基礎知識(1) ー発電の仕組みー

知人から教えてもらったwebページ( よくわかる原子力 )で今更ながら原子力発電とはいったいどういうものかを再勉強してみた.これは手を動かすことで個人的な記憶の定着と備忘録を目的にしているので内容自体にはそれぞれの参考文献をあたって欲しい. 商用の原子力発電とは,ウラン235を核分裂させて他の原子に変換されるときにエネルギーがでるがこれによる熱エネルギーを蒸気タービンで電気に変換する行為であること.原子爆弾との違いは,その反応の早さと目的で原理自体は同じで, 「遅い中性子を利用した制御できる反応」とは原子炉での反応、「速い中性子を使った爆発性の反応」とは原子爆弾のこと. 核分裂の反応を制御するために様々な設計と対策がなされている. 商用の原子炉は主に2種類ある. 沸騰水型原子炉(BWR: Boiling Water Reactor ): 軽水 (普通の水) を直接核燃料棒に触れさせ沸騰させ、高温・高圧の蒸気として取りしタービン発電で電力を生む. 加圧水型(PWR: Pressurized Water Reactor ):軽水(普通の水)に 高い 圧力を掛けて沸点を上げて300℃以上に熱し(これを一次冷却水という),この熱で別にもうけられた2次冷却水を沸騰させてタービンで発電する. 制御の基本である反応の促進(車に例えるとアクセル)と抑制(ブレーキ)は単純で制御(棒)を燃料棒間に上げ下げして核分裂の反応の多少を制御する.制御棒は核分裂の媒体の中性子を吸収する材料からなる. 制御は,BWRでは冷却水そのもので短期的出力を調整できる.PWRでは中性子吸収材料で炭化ホウ素とかカドミウム合金で出来ている. 地震などの緊急事態には原子炉は 緊急炉心冷却装置 (ESSC: Emergency Core Cooling System )が取り付けられており,炉心の冷却と炉内の減圧の機能を持つ.制御棒の一斉挿入と水注入による冷却が基本. 事故後はこの冷却できるかがポイントとなる (2011.03.21)