原発の基礎知識のブログを(4)までを書いた後,友人から*1について「非常に検討する価値がある新鮮な文書を見つけました。理科系の頭脳で要約してみてください。」と注文がきた.
webの著者はスウェーデン国立スペース物理研究所(Swedish Institute of Space Physics (IRF))の科学者・山内正敏さんで,今回の福島原発事故で外部被曝を避けるためにどの『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』に点いて書かれている.このページは改訂されており,改訂前のページに対しては東北大学の北村正晴名誉教授が辛口のコメントを掲載している[*2].
山内さんの動機である,
- 『現在の放射能の値は安全なレベルである』 という談話を発表していますが、残念ながら、どの組織も 『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』 を発表していません。
に激しく同意する.TVに出てくる安全・安全と繰り返すヒトはどうなったらどういった行動を起こすかを併せて言う必要がある.
このページではいつ退避すべきなのかを氏の論文を考察する.結論として,「山内さんの結論は仮定された数字に根拠が示されていないため(1),(2),(6),(7)を指針と出来るかわからない」である.
このページではいつ退避すべきなのかを氏の論文を考察する.結論として,「山内さんの結論は仮定された数字に根拠が示されていないため(1),(2),(6),(7)を指針と出来るかわからない」である.
主張のポイントは,
- 外部被曝の(許容)上限値を総量100 mSv(ミリシーベルト)とする(妊婦以外の大人).
- 住居付近で放射能濃度の悪化に気がついてから脱出まで半日かかると仮定
- 悪化とは刻々と状況が悪くなる事態を意味するので危険値は100時間で割るのが妥当
- (1) 居住地近くで1mSv/hに達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
- (2) 居住地近くで0.1 mSv/hに達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
- (3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで0.3 mSv/hに達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号
- (4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで0.03 mSv/hに達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号
- (5) (福島)原発から北西と真南に伸びる地域では上記(1)、(3)の半分の放射能量で緊急脱出すべき = 赤信号
- (6) もしも原発の近くで50mSv/hを越えたら風下100km以内の人は緊急に屋内に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号
- (7) もしも原発の場所で急に5μSv/h以上の変動が見られたら、風下100km以内の人はなるべく屋内に退避し、100km以上でも近くの放射能値に随時注意する = 黄信号
- (8) 居住地で黄信号の場合、朝凪や夕凪(あるいは霧の発生し易い天気下)は外出を控える = 赤信号
- (9) シミュレーションの試算値に極端に惑わされてはいけない
- (10) SPEDDIシミュレーションは、これから先、真っ先に危険になるかも知れない地域を予測するのに役立つ
括弧(数字)は原文通り.
主要な主張ポイントを考察する.
1,2はいいとして,3の「危険値は100時間で割るのが」妥当というのがわからない.そのため,4の赤信号=1mSv/hで即脱出も理解できない.これをもう少し考察してみよう.
住居地での脱出すべき放射線量をs1とし,このレベルになったと気がついて(黄色信号点灯),逃げるまでの時間をt1とすると,この時刻(t1)まで被曝した総線量(y1)は
これを妥当とすれば,(2)の1桁小さいときに脱出準備をするというのは,同じ割合で大きくなっているなら1/10なので同じ4時間となり倍の時間しかない事になる.同じ割合増加するという前提の事故が起こると黄色信号で即行動と赤信号で即行動とが4時間しか差がない.でもそんなものかもしれない.
山内さんのページで(6)に対応する部位で「第3に距離との関係」であるがここでも分かりにくい部分がある.自分なりに読み込むと,原発現場で当局が警報を出すほど高濃度の放射能を出す事象が起こり,その時刻から居住者が認識できるまで2時間とすると放射性物質を含む高濃度ダストは地上数百m以上の高さでは時速40kmなので80km圏に到達する.そして,2時間なので総量100mSvの半分の50 mSv/hを危険値としている.80km圏以内では距離は関係ないとしている.この飛行距離は放射性物質の減衰に寄与しないという考えはWoodieの考え方と同じである.でも50mSv/hは大きすぎると思う.それまでに累積の被曝量を加味していないためである.
(7)の「原発位置での5mSv/hの変動をが見られたら風下100km圏内の人はなるべく屋内退避する」のは安全を見て桁で小さい数字を使っているとしている.この仮定はそんなもんかもしれないし,それ以上かそれ以下かもしれない.その是非はわからない.
主要な主張ポイントを考察する.
1,2はいいとして,3の「危険値は100時間で割るのが」妥当というのがわからない.そのため,4の赤信号=1mSv/hで即脱出も理解できない.これをもう少し考察してみよう.
住居地での脱出すべき放射線量をs1とし,このレベルになったと気がついて(黄色信号点灯),逃げるまでの時間をt1とすると,この時刻(t1)まで被曝した総線量(y1)は
- y1 = ∫ s(t) dt; [ t = -t0 , t1] = ∫ s(t) dt; [ t=-t0, 0] + ∫ s(t) dt; [ t = 0, t1] (1)
- y1 = α s1 t0 + β s1 t1 (2)
- 100 mSv/2 > y1= 1 mSv (α t0 + β t1) = 1 mSv (α t0 + β * 4) (3)
これを妥当とすれば,(2)の1桁小さいときに脱出準備をするというのは,同じ割合で大きくなっているなら1/10なので同じ4時間となり倍の時間しかない事になる.同じ割合増加するという前提の事故が起こると黄色信号で即行動と赤信号で即行動とが4時間しか差がない.でもそんなものかもしれない.
山内さんのページで(6)に対応する部位で「第3に距離との関係」であるがここでも分かりにくい部分がある.自分なりに読み込むと,原発現場で当局が警報を出すほど高濃度の放射能を出す事象が起こり,その時刻から居住者が認識できるまで2時間とすると放射性物質を含む高濃度ダストは地上数百m以上の高さでは時速40kmなので80km圏に到達する.そして,2時間なので総量100mSvの半分の50 mSv/hを危険値としている.80km圏以内では距離は関係ないとしている.この飛行距離は放射性物質の減衰に寄与しないという考えはWoodieの考え方と同じである.でも50mSv/hは大きすぎると思う.それまでに累積の被曝量を加味していないためである.
(7)の「原発位置での5mSv/hの変動をが見られたら風下100km圏内の人はなるべく屋内退避する」のは安全を見て桁で小さい数字を使っているとしている.この仮定はそんなもんかもしれないし,それ以上かそれ以下かもしれない.その是非はわからない.
なお,屋内退避の有効性は木造では10%の低減にとどまるが,内部被曝では気密性の高い建物では1/20〜1/70にヨウ素による甲状腺線量を低減できるとある[*4].
(2011年03月26日)
*2:山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」を読む際に考慮すべき点とは
コメント