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「里山資本主義」読了。本書は希望の書である

  里山資本主義−日本経済は「安心の原理」で動く−、藻谷浩介、NHK広島取材班著、角川ONEテーマ21(2013年) 本書は希望の書である。 マッチョなマネー資本主義と著者らが呼ぶアングロサクソン人が仕掛けたグローバルなマネーゲームに付き合い続ける大都市とそこから取り残され疲弊した地方という21世紀初頭の日本は生きにくい時代だ。少子化と高齢化が同時に進み、それが不安を伴って語られるとき、将来に明るい未来を思い描きづらい。藻谷氏は、少子化は未来を信じられないことが原因で子孫を残すことをためらうという一種の自傷行為と指摘し、高齢化は高齢人口の絶対数の増加が問題と指摘している(最終総括には何が問題なのかの記載は無いが)。また、3.11と同様な自然の大災害やそれを契機とした人的災害のリスクも全国津々浦々にある。 しかし、この課題満載の日本には元々、里山という恵み(エネルギー、食料、水)をもたらす自然とそこから価値を生み出す技を持った住民がおり、マッチョなマネー資本主義のサブシステムとしてエネルギー、食料、水を地産地消を機能させることでいくつもの課題を解決することができると主張する。これを里山資本主義と名付けた。ここでのキーは人々が繋がることで相互依存関係を構築するコミュニティの再生にあるのだが、その極意は「手間返し」と呼ぶ互いにお世話をしあいお返しをする無限のつながりだと例示する。周回遅れに思われた地方が元気になることで課題大国日本を救うことができると里山を中心とした地方のポテンシャルを再発見する(この再発見こそがイノベーションだと思うのだが)。 本書はまた、農業、林業の失政もあり成長から取り残された中国地方にあって、お達者ローカル、Uターン、Iターンした若者による地方活性の実例を紹介し、里山資本主義とは何かを炙り出していく。その章ではページをめくるたび涙が溢れてきた。登場する方々は今の評者が無理をして生きていることの違和感を見事にそしてしなやかに克服しているからだろうか。筆のタッチも温かな眼差しで溢れている。心温まる話で終わるのでなく、本質を突いた説明が納得度を高めている。 自分のセカンドライフは里山資本主義の実践こそが生きる指針となるだろうと思える希望の書である。