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鳴き声からの識別(How to identify the bird from its sound. )

鳥はその暮らしの中で様々な音を出します。

朗々と鳴く囀り、冬の地鳴き、飛ぶ時の羽音、何かを突っつく時の音、翼を体にぶつけて出す母衣(ほろ)うち、虫を探しているのか枯葉をひっくり返すときにでるカサコソと言う音。その中にあって、自己を主張しコミュニケーションとしての囀りや地鳴きの声は鳥の名前を探り当てる大いなる情報です。

鳥の鳴き声を聞いて、なんて言う鳥が鳴いているんだろう、とバードウォッチングの最中に思う事はしょっちゅうです。ベテランのバードウォッチャーはこの声は○○と教えてくれます。では、聞く相手も居ないとき、バードウォッチングしている仲間の誰も分からないとき、鳥の声からどう鳥の種名を探り当てる事ができるでしょうか。このページではそんな事を考察したいと思います。

参考にするレファレンスCDはこの4冊:蒲谷1996(蒲谷2004)、上田1998、松田2016、植田2014、このページの下にリンクを張りました。この他にも、バードリサーチ鳴き声図鑑もあります。xeno-canto も有名です。


それでは、鳥の鳴き声から種名同定までの幾つかの方法を見て行きましょう。

初級編

方法1)探鳥会で人に聞く

当たり前ですが、知っている人に聞くのが一番手っ取り早いです。
バードウォッチングの初心者は見るモノ聞くモノすべて新鮮で教えてくれる人もたくさんいます。探鳥会に参加してその場所で年中見られる普通種をまず覚える事になります。これが”ものさし”となってこれと同じか違うかが分かれば、聞き分けられる数が多くなってきます。

方法2)さえずりナビを試す。

バードリサーチが”さえずりナビ”をスマートフォン向けに作っています。
家の周りで,ハイキングに行ったとき,鳴いている鳥の種名を知りたくなることがあります.「さえずりナビ」は,場所・季節・声のタイプなどから,その鳴き声の鳥を検索してくれます.姿や形の専門知識が無くても検索ができ,その鳴き声を聞くことができます.
あまり使った事無いのですが、twitterではまあまあのコメントが多いです。

中級編

方法3)録音して似ている声をCD/WEBで調べる

録音できれば後で調べる事ができます。ICレコーダも小さく安くなってきました。持っていなくても携帯電話やコンパクトカメラの動画機能でとりあえず録音できます。
録音した声と市販された野鳥のCDやネットで調べた声を比較します。こう簡単に書きますが、実際はなかなか答えにたどり着きません。野鳥大鑑など650種の中から調べるのは相当大変です。実際途中であきらめる事が多いです。
でも、馴染みのフィールドで”ヒツキー”と声がして、録音して、これを出たばかりの蒲谷(1996)で聞き比べてエゾムシクイだと分かった時はヤッターって気になりました。アドレナリン放出です。これでヤミツキになります。
 課題は繰り返しになりますが非効率な事です。

上級編

方法4)鳴き声を文字にあらわして調べる

今は、この方法が一番効率的だと思っています。石井(2015)の文献は鳴き声を文字表記したもので、
日本産の約700種の鳥について、日本語および英語の鳥図鑑など約20冊の文献にに記載されている鳴き声の文字表記(カナ、および英語)と、その音声に関するいろいろの特徴、およびその声を発する時期・場所などの状況に関する情報を収集し、Excel形式のデータとした。
とあります。これには検索用のファイル(種別鳥声表-検索用-表1.csv)がCDに同封されていてこれを使います。流れは次のようになります。

  1. 謎の鳥の声を録音する
  2. 鳴き声を文字に表記する
  3. 石井(2015)で検索する(種別鳥声表-検索用-表1.csv)
  4. ヒットしたモノをCD音源で聞き比べる
  5. 同定する

例を挙げます。夕方葦原でこんな声を聞きました。初めての声です。

  1. 謎の声を録音する→
  2. これを文字表記する (クォ、クォ)
  3. これを石井(2015)で検索する。MacOSX でTerminalを開いて、WindowsならCygwinで同じことができます。
  4. $ grep クォ 種別鳥声表-検索用-表1.csv
    24,オシドリ,雌,クォッ,,,,,,,,大きな,,鋭い,,,,,,,,
    115,オーストンウミツバメ,,ウォークォン、カカカ,,,,,,,,,,,,,,,,,,
    126,チシマウガラス,,クォーッ,,,,時々,,,,,,,喉に痰が詰まったような,,,,,,,
    126,チシマウガラス,,クォーン,,,,,,,,,,,,,,,,,,
    134,オオヨシゴイ,,クォッ、クォッ,,,,,,,,,,,,,,,,,,
    137,ミゾゴイ,,クォー、クォー、クォー,,,,同じ調子で10回以上続け、間をおいて同じ調子で鳴き続ける,,,,,低い,,唸るような,,,,,,,
    138,ズグロミゾゴイ,,クォクォー,,,,5~6回続けて出し、間をおいて続ける,,,,,低い,,唸るような,,,日没後と夜明け前,,繁殖地,,
    139,ゴイサギ,,クォッ,kwok,,吠え声,,,,,,太い,鼻にかかった,,,,,飛翔中,,,


    など 。これで環境から絞り込み候補のミゾゴイやオオヨシゴイの声をCDで聞いてみます。ちょっと違う様です。今度は検索文字を変えてみます。クオ、カオ、キオなど。でもなかなかこれだというモノがヒットしません。今度は違う観点から"繰り返す”、場所からクイナの仲間じゃないかと想像してクイナを検索します。
    $ grep 繰り返す 種別鳥声表-検索用-表1.csv | grep クイナ
    ....
    162,シマクイナ,,硬い音,hard note,C,硬い音,繰り返す,,,,,,硬い,2個の石を叩き合わせたような,,,,,,,特有
    163,オオクイナ,,アオゥアオゥ,aow aow,,,,規則的に繰り返す,,,,,,,,,日没後,誇示飛翔中,低地の林の低い個所,,
    ...
    170,ヒクイナ,,②キョッ・キョッ・キョッキョッキョ・ブルルル,kyot kyot kyotkyotkyo burururu,,顫音,繰り返す,①から続く,,だんだん速くなる,,下降調,,戸を叩く,,,,,,,
    170,ヒクイナ,,キョッキョッキョッ,kyot-kyot-kyot,,,繰り返す,,短い,だんだん速くなる,,,,,,,,,,,
    173,ツルクイナ,,クルックルックルッ,kruk-kruk-kruk,,,繰り返す,,,,大きい,,,,,,,,,,
    173,ツルクイナ,,コッコッコッ,kok-kok-kok,,,繰り返す,,,,大きい,,,,,,,,,,
    ....
    ヒクイナ、シマクイナ、ツルクイナが候補に挙がりました。これをまたCDで聞き比べ。こんな野太い声のツルクイナでは絶対ない!!って、感じでとても楽しめます。
    4. CDを聞き比べて、これでめでたくヒクイナと同定できました。
    自分で聞いた”クォ”は石井では"キョッ"と表記されていました。改めて人の聞き方は違うなーと思う事もできました。確かに、キョッの方が近いかなーと反省したりして。
文字検索の良い所は、違う条件で入れられる事です。硬いとか規則的とか、だんだん早くとか。これを駆使して候補対象を絞って行きます。ここはWEB検索に通じます。

方法5)声紋で特徴量を計測して種同定

サンショウクイには亜種サンショウクイと、亜種リュウキュウサンショウクイがおり、関東では亜種リュウキュウサンショウクイが冬期に観察されています。このブログでも取り上げていますので、そちらを見てほしいのですが、幾つかの種同定あるいは個体識別に鳴き声の特徴量を抽出し、これを識別に使っています。これは上級な使い方です。

方法6)声紋比較

録音できればその音声データを声紋(スペクトログラム、ソナグラム)に表示して、それと似ている声紋を図形として比較します。声紋が載っているのは蒲谷(1998,2004)の野鳥大鑑です。自分で声紋を作るのはとっても簡単になりました。AudacityとかAmadeusProとかを使えばすぐ作れます。この図形を蒲谷と見比べる訳です。

でもうまく行った試しはありません。声紋は、横軸の時間の取り方で見え方が違うのと、WEBなどでまとまったサイトが無いなど便利なモノがまだ無いからです。今後、機械学習でディープラーニングの技術が進めば、音そのものばかりでなく、図形として検索ができるようになるかもしれません。これもやってみたいテーマです。

方法7)機械学習

これは研究途上の分野だと思いますが人の音声認識は実用レベルになっているので、やる気次第だと思います。教師データをどれだけ集められるのかがポイントでしょう。
『ききみみずきん for iPhone』っていうアプリがありましたが最近アップされてないのが残念です。

方法8)知ってい人に伺う

最終方法として知ってい人に伺うことも選択肢としてあります。探鳥会のリーダに相談すれば、その種を研究している人を教えてもらうこともできるでしょうし、今なら、CD著者や監修者の松田さん、植田さんに伺う事もできるでしょう。でも、これは自分で最大限調べてからにすべきでしょうね。ネットは誰でもつながれてイージーな方法なのですが、そこは節度を持って。


まとめ

というわけで、鳥の声の識別はすなわち自分の能力向上の事なので(機械に任せるのではなく)努力が必要です。これは楽しみでもあり、人生を豊かにする事でもあります。こんなところでこんな鳥に出会えるとは、って発見は人生を豊かにしますよね。

初心者は人に聞くのが最も適していると思いますが、ある程度分かるようになると教えてくれる人がどんどん少なくなってしまいます。どんな分野でもそうですが。そこである程度自分で調べられるようになる事が大切ですね。

本駄文が参考になれば幸いです(松田さんの 「鳴き声から調べる野鳥図鑑」の発行を前に考えをまとめてみました)。







石井直樹, 2015, 鳴き声から種を同定するための日本鳥類鳴き声大辞典, 石井直樹, 2015.8




上田秀雄, 1998,  野鳥の声283 CD版, 山と渓谷社  (アマゾン、山と渓谷社の扱いは無い)

植田睦之監修, 2014, 日本の野鳥さえずり・地鳴き図鑑 : CDで鳴き声を聴き分ける全152種, メイツ出版, 2014.7






松田道生, 2016, CD鳴き声ガイド日本の野鳥―フィールドガイド日本の野鳥増補改訂新版対応CD, 日本野鳥の会 (2016/11)




松田 道生 (著), 菅原 貴徳 (写真), 2017, 鳴き声から調べる野鳥図鑑—おぼえておきたい85種 (音声データCD付き) 単行本, 文一総合出版 – 2017/4/20



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