”ゆかいな聞き耳ずきん、クロツグミの鳴き声の謎をとく”を読んだ。
鳥仲間に薦められて図書館で借りた本だ。Amazonにはなかった。
表紙をめくると新潟の昔話「聞き耳ずきん」から始まる。はたらきものの権兵衛が親切にしたネズミからずきんをもらう。そのずきんを被ると鳥の言葉がわかるという。果たして鳥の言葉のわかるようになった権兵衛は、庄屋の病気の娘さんをその力で直し、権兵衛は娘さんと結婚し幸せになったというお話、そんな昔話から始まる。
読み進めるとわかるのだが、石塚さんはクロツグミの囀りから個体識別し、森での繁殖行動を調査するまでになるが、もともとの動機は、クロツグミの囀りをカタカナで表したいことだったそうだ。挑戦する当時、クロツグミはレパートリーが豊富すぎて無限にある様に思われ、声をカタカナで表すという聞きなしは無理だと思われていたからだ。
なるほど本に書いてあるクロツグミの声のカタカナ書きを読むとクロツグミが鳴いている感じがする。カタカナでで書くことで個体毎の特徴が見えてきたそうだ。そこでその効果を調べるために、箱根の仙石原で個体識別に挑戦したところ、成功したと感じ自信ができ、「聞き耳ずきん」を手に入れたような気になったそうだ。そして大学の学生時代の研究で取り組んだ金沢の森でその威力を試すことにした。明示はないがそこでは鳥を捕まえて足輪を付けるバンディングが長年なされており、声による個体識別の結果を足輪で確認できることによるために彼の地を選んだのだろう。
当時、横浜市で教師をされていた石塚さんは毎週末を金沢に通うことになる。そこの森で、縄張りで囀るクロツグミの声と、目視による足輪確認で個体識別が可能であることを実証的に検証している。識別された個体には名前がつけられ、またその名前が付けられたことでよりいっそう鳥達の生活に入り込める様に読者の私も感じられた。
絵がまたいい。クロツグミの個体を書き分けられるのは鳥好きの岩本久則さんしかできなかったろう。腹の黒のマークがトランプ柄のアイディアもすばらしい。
そして、読み進めると個体識別の威力に圧倒される。
テリトリー以外でさえずることがあること。森のクロツグミは共通的な歌を持っていること。時に明らかに異なる歌を持つクロツグミが居着いた時、2〜3ヶ月で元の自分の歌を捨て、森の共通の囀りを覚えたこと。1羽のオスが2羽のメスに卵を産ませたこと。などなど、知られていない謎が次々と語られてくる。知らないことばかりだ。個体識別ならではの効果だ。
もう一つの凄さは、これくらい芳醇な内容を小学3年生でもわかる平易な文章で表現していることだ。この人はもうただ者ではない。
20年鳥を見て鳥を聞いてきたものとして、石塚さんのアプローチには心動かされるものがある。
今はまだ6月、鳥達の季節だ。明日はパラボラアンテナ担いで夏鳥を録音しに行ってこよう。
*石塚徹文著 /岩本久則絵、"ゆかいな聞き耳ずきん、クロツグミの鳴き声の謎をとく"「月刊たくさんのふしぎ」, 福音書店.2010年06月号
日本昔ばなしで「ききみみずきん」を見つけました。2010/09/10
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